槙村 浩

今年は犬のお正月
犬さん大そうよろこんで
初日の出をば拝みて
「ヤァお目出度う」ワンワンワン
花の咲き出す春の頃
梅桃桜花見して
犬さん酒にほろよひで
三味線ひいてワンワンワン
暑い/\と夏くれば
海水浴としゃれ出して
犬さん浜べでジャブ/\ と
一生懸命泳ぎ出す
雪ふり積る冬の頃
犬さん中々元気よく
町の中をばとびまはり
「お正月来い」ワンワンワン

古ぼけたぜんまいがぜいぜいと音を立てて軋る
もう十二時になるのに
あなたはまだ帰ってこない
くすぶった電球の下で
私はもう一度紙きれを拡げてみる
―――八時までにはかならず帰る
    待っていてください  T
前の道路を行くヘッドライトが
急に大きく
ぽっかりと障子にうつる
私はぎっくりして
寒い下着の襟をかき合わす
あなたはもう帰ってこない
あなたはセンイのオルグ
朝の四時
氷柱を踏んで私たちが工場へ急ぐ時
あなたはニコニコ笑いながら
電柱のかげからビラを渡してくれた

サガレン。絶北の植民地。―――こゝに小熊秀雄かつて行商の鍬と共に放浪し
数年後藤原運またショベルを携えて徘徊した

小熊秀雄は自然を最もよく背后の凹影に見た
藤原運は自然を最もよく前面の凸影に見た

小熊秀雄は社会を痴呆せる自然の背后におしかくした
藤原運は社会を麻痺せる自然の前面におしすゝめた

小熊秀雄は生来の饒舌でしゃべりにしゃべりまくった
藤原運は労働者の簡素さでけんそんに語った

小熊秀雄は自然弁証法の詩人だった
藤原運は唯物弁証法の詩人であるだろう

小熊秀雄は時代の誤りを持つが故に多く愛され
藤原運は絶対に正しいが故に少く愛された
だが、ルンペンの愛が少数のプロレタリアートの愛に替え難いとしても、わたしらは時として寂しい
なぜなら、わたしの内にあるいくたのサガレンを正しく、そしてもっと多く世界に伝えることは、同志藤原の任務だから